Vol.6 新種乳酸菌ラクトバチルス コウソイ発見

アルソアR&Dセンター 高橋知也
アルソアR&Dセンター
高橋知也
発見の経緯
これまで、自然発酵により作られる食品「酵素飲料(植物エキス発酵飲料)」の発酵過程において、どのような菌が関わっているかについての詳細な研究は、世の中で成されていませんでした。
我々は、2014年から東京大学と共同で、当時画期的な技術革新により登場してきた次世代シークエンサーという遺伝子解析機器を用い、酵素発酵液の菌叢の解明にいち早く取り組みました。その結果、発酵後期に登場する優勢菌が、これまで知られていない未知の乳酸菌であることを突き止めました。当初は、未知の乳酸菌が全菌叢の70~80%を占めることから、容易に単離培養が出来ると考えて分離を試みましたが、予想に反し、純粋培養が出来ませんでした。さまざまな培地成分の検討や培養方法の検討を約2年間行ったものの、なかなか単離に至らない中、発想を転換し通常は行わない液体培地を用いた特殊な単離法により未知の乳酸菌の純粋培養に成功しました。
特定の菌のみを純粋に培養すること
新種登録
この未知の乳酸菌を純粋培養できるようになったことにより、菌の性質を詳細に調べることが可能になりました。解析の結果、この菌は、当初予想した通り、既知の菌には属さない新種の乳酸菌であることが判明しました。この解析結果を国際学術誌アントニー ヴァン レーベンフックへ投稿・受理され、2018年1月に論文発表に至りました。新種名は、酵素発酵液から見つかったことにちなんで、「ラクトバチルス コウソイ」と命名しました。その後、新種登録に必要な手続きとして、国際進化系統微生物学誌(IJSEM)事務局へ申請を行い、2018年9月に認証リスト(バリデーションリスト)に掲載、「ラクトバチルス コウソイ」は、新種として国際的に認められることになりました。
菌種特性
ラクトバチルス コウソイの菌種としての特徴は、フラクトフィリック(好果糖)性であること、すなわち、糖の代表ともいえるブドウ糖(グルコース)をほとんど資化することが出来ず、果物に多く含まれる果糖(フラクトース)を好んで食べることにありますが、その生理学的・生態学的意義については未だ解明されていません。予想されることとして、花蜜にラクトバチルス コウソイが棲んでいること、環境中での乳酸菌の伝播に蜂が関与していることと関係するのではないかと推察されますが、いずれにせよ、本菌の特殊な菌種特性の意義付けや特殊な糖代謝系の解明は、今後の研究の進展に待つところになります。
ミツバチと花
ラクトバチルス コウソイの有用性
人々の健康維持に免疫は重要なファクターです。特に、全身免疫の約70%を腸管免疫が担っていることがわかっており、腸管免疫を高く維持することが健康維持に欠かせません。そこで、ラクトバチルス コウソイの腸管免疫賦活作用について調べることとしました。驚いたことに、既知の乳酸菌・ビフィズス菌との比較で、ラクトバチルス コウソイが突出して高い腸管免疫賦活活性を持つことが明らかになりました。さらに、本菌の腸管免疫賦活活性は、耐熱性を有することもわかってまいりました。このことは、火入れした製品中(死菌)でも、活性が維持されることを意味します。既知の乳酸菌の持つ免疫賦活活性として、耐熱性を有するとの報告はほとんどなく、本菌の持つこの性質は、際立つものと言えるでしょう。
ラクトバチルス コウソイ発見の意義
ある特定の発酵食品を代表する優勢乳酸菌として新種が見つかったことは、これまで例がなく、今回、酵素発酵液から新種乳酸菌ラクトバチルス コウソイが見つかったことは、大変意義深いものと言えます。ラクトバチルス コウソイは、これまで世の中で調べられたことのない乳酸菌であることから、無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。その性質の解明には、今後の研究の伸展に大いに期待するところです。

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